ナイトミュージック
馴染みの店で、ゆっくりと杯を傾ける夜。
凡そ騒々しさとは真逆な、柔らかく哀愁を帯びた旋律が、密やかに。
ピアノアレンジされたポップミュージック。
耳馴染みの良い、それに、目を伏せて。
舌の上、柔らかく、芳しい酒精を味わう。
そんな中。
ふと、思い出した、そんな様子で。
「ピアノ、弾けるんだな」
傍らから、投げかけられた思いもよらぬ言葉。
カタリ、グラスの中、涼やかな音を立てる丸い氷。
少しの間を置いて、思い当たる。
「あぁ…まぁ、多少はな」
戸籍上の、『姉』が、一時習っていたピアノ。
連弾の練習だ、なんだと、付き合わされたおかげで、いくらかは。
弾ける等と、自信を持って云えるようなレベルではなく、また、鍵盤に触っていたのも『姉』がそれを習っていて付き合わされた一時の事だから、忘れ果てているだろうっと、そう思っていたのだが。
昼間、訪れた『実家』で、調律したばかりのピアノに向き合う機会があった。
同じく訪れていた、『兄弟』と共に、久しぶりに、弾いてみたのは戯れ。
だったのだけど。
小さく、音を立ててグラスをカウンターに。
目ざとく、近付いてきたマスターの耳元へと、一言二言。
訝しそうに、傍らから名を呼んで来るのには、ニッと笑って見せて。
店の奥、ひっそりと置かれたグランドピアノの前に。
時間がまだ早くて、ほぼ、貸しきり状態だったから。
戯れに、一音、二音。
特に理由はないが、気分が良かったから。
「アンタの為に弾いてやるよ、リクエストは受付ねぇけどな」
云って。
指が、今でも覚えてる旋律を、そっと奏でた。
終
LEAVES 8周年祝いにと、未来 恵さまが書き下ろして下さいました。
こういう素敵なお店には足を運んだことの無い惑ではありますが、しっとりとした空気を堪能させて頂きましたよ。創作を始めたずっと以前から、楽器を奏でる男、というのに憧れておりまして、今回こうしてピアノを弾くギンコ、というレアなものを頂けたことが、嬉しいぃぃっ。未来様、ありがとうございましたっ。
それにしても未来様の頭の中には、まだ書かれていない彼の情景が、いっぱい詰まっていそうですね。少しずつ見せて頂けるのを楽しみにしています♪
2014/04/12