2013年の誕生日のプレゼントとして、紫亜さんから頂きました。そんなふうにするほど、ギンコを想っているのだと思うと、なんだか切なくなるほどです。と思ったら、あーら夢落ちだったー。こ、この演出っ・でも、本当に蔭膳、しているかもよ? そうしたいと思うほどの気持ちである筈。そんなふうに思っておくことにします。だって先生の気持ちはよく分かるから。
それにしても、自分がそんなに想われている筈がない、と思ってしまうギンコ。化野にそういうふうにする相手が別にいるなんて思ったりして、そうなんです、ギンコってそんな人なのよね! 激しく同意の嵐が吹き荒れた私です。紫亜さん、本当にありがとうございました。あの時は、頂けると思っていなくて、凄く嬉しかったです。
載せるのがこんなに遅くなってすみませんでしたっ。
蔭 膳
文もなく立ち寄った海辺の里は、ちょうど夕食時だった。
これならあいつも起きているだろう。
以前立ち寄った時には夜も更けていて眠っていたが、今回はその心配は無い。
木箱を背負い直し、家に向かう。
途中すれ違った里の者が、今日はセンセイ起きてるよ。と茶化してきた。
言い返せないのが少し癪だ。
夕食時独特の匂いは裏庭をも満たしていた。
玄関から入ればいいが、なんとなく、本当になんとなく裏庭に回っていた。
「あだ…」
声掛けようと、居間を見ると、膳が一つ多く置かれていた。
それはいつも俺が座っている縁側に近い場所。
そこから少し離れた場所に、化野の姿はあった。
嬉しそうに、飯が入った桶を抱え縁側のそれの側に腰を下ろした。
木の影に隠れている俺はその場から立ち去ろうと足を動かした。
ぱき
足の下敷きになっていた小枝が運悪く鳴り、俺は動けなくなった。
「誰か、そこに居るのか?」
化野は注ごうとしていた茶碗を置き、草履を履いて庭に出てきた。
立ち尽くしたままの俺はすぐに見つかり、化野は心底驚いたような顔をしていた。
「ギンコ?!なんでまた裏庭なんかに」
「いや、なんとなく。な」
「とりあえず、家に入れ。ちょうど夕飯にするところだったんだ」
化野に手を引かれ、縁側へと座らされた。
横には、あの膳がある。
「なんだ、客が来てたのか?」
なんでもないような顔をして膳を見ると、化野はいそいそとそれを片付け始めた。
別に、やましい事がないのなら片付けんでも良いだろうに。
「いや、客は来てないんだ…その…な」
「…嫁でも、出来たのか?」
「それはないぞ」
化野は何かを隠しているようだった。
だが、無理に聞く理由はない。
「まぁ、話したくないのなら別に話さんでもいいさ」
「いや、そうでもないんだ。なんというか…」
なんなんだ、一体。
化野が新しい膳を用意している間、無言だった。
口を開くといらん事を口走ってしまうそうになる。
俺は蟲煙草を吸いながらぼんやりと闇を見つめていた。
「あれは…陰膳、でな」
膳を置きながら、答えた。
陰膳。前に旅で訪れた母親が行なっていた行為。それには確か…
「留守者が旅先で食事に困らないようにするため、だったか?」
「あぁ」
「何だ、お前にもそういう奴が居たのか」
白米を口に放り込み、噛み締める。
久々に口にした米は美味かった。
「居るさ。俺にだって」
少し、寂しそうな声で呟いた。
「お前にそう思われてる奴は幸せものだな」
「…」
「俺には、縁のない話だ」
「…ギンコ」
化野は箸を置き、隣に座り直した。
「お前なんだ」
「何がだ?」
「お前のための陰膳なんだ」
うつむき顔は見えないが、苦しそうな声をしていた。
「お前が旅先で飯に困らないように、安全にここに帰れるように、毎晩、願いを込めいていんだ」
ここに、帰れるように…
ここはお前の家であって、俺が帰ってもいい家じゃねぇだろ?
その言葉は喉まで出かかり、無理やり飲み込んだ。
服の裾を握る手が微かに震えていた。
「…すまん」
「なんで謝るんだよ」
「すまん」
「謝んなよ」
頭を乱暴に撫で、俺は笑った。
「嬉しく思ってるよ」
「…本当か?」
「あぁ」
化野は安心したのか裾を離し寄り添ってきた。
嫌にならないこの距離は心地いい。
ふわりと香る化野の髪の匂いはいつもと変わらない磯と薬草の匂いがした。
化野の腕の中で、そんな夢を見た…
終
13/07/17