2013年3月っ。pixivでお知り合いになった未来 恵さまのお誕生日が割と過ぎたばっかり、ってことで、お誕生日祝いの作品を書かせて頂きました。そしたら、そのお返し?あーんど「LEAVES」七周年のお祝いに、私の書いた「ワンフレーズの君を…」と、対になった感じの小説を書いてくださいました。コンセプトは「ラジオ越しの声に一目惚れ」というものv とってもお洒落で素敵な作品ですっ。
こんな素敵なの書いて頂いてっ、ラジオの曲紹介とお酒のお店、という…大人〜な感じが流石未来様ですっ。本当にありがとうございますっ、今度なにねだろうかv え? こらこら?
私の書いた作品は、蟲師コーナーの「パラレル」のページに載せましたので、合わせて楽しんで下さると嬉しいです。では、下に未来様の素敵作品をっ。
『ブルームーン』
その…声は、なぜか、ストンっと胸に落ちてきた。
久しぶりに逢う…と云うよりは、呼び出された学生時代の先輩との待ち合わせ前。
先の予定が早く終わって、男は空いた間に、書店に足を運んだ。
丁度、仕事で要る資料を探す必要性もあって。
ゆっくりと時間をかける余裕は無かったが棚を眺め、二・三引き出しては、戻しして。
その間も、耳は音を捉えてはいた。
店内の雑踏を邪魔せぬ程度に、流れていたのはラジオだろう。
チラリ、時計を見て、その内二冊程を手に、レジへ。
緩やかにフェードアウトして行くのは、CMなんかでも聴いた覚えのある曲。
余り、そう云った事柄に詳しくない男でも、名前を聞いた事のある歌手の。
それに、重なるように。
『『XXX…』で、『ブルームーン』でした』
静かな、声だった。
溌剌とした元気さはないが、陰鬱には程遠く。
淡々とした、だが、冷たくはない声音。
『続いては、○◎市の30歳主婦の方からリクエスト頂いた曲を…』
男自身と、恐らくは同年輩位だろう、語り口から知れたのは、それ位。
低く、柔らかで耳障りが良いのに、サラリと零れていくような。
すっと、胸の内に入り込んで、微かな余韻だけを残し、捕まえようとした時にはもういない。
乾いた風のような、不思議と耳に残る…声。
無論、その瞬間に其処まで考えが及んだ訳ではなかったが。
「お客さん」
レジの、初老の男に苦笑交じりに呼ばれて、男は我に返った。
もしかしたら、幾度か呼んだのかも知れない。
大判の書籍は二冊とも、綺麗に紙のカバーがかけられ行儀良く受け取られるのを待っている。
初めて聴く『声』に、気を取られていたらしい。
「……円になります」
会計を済ませ、入れ違いに商品を受け取る。
「今…流れてるのは」
「ん?曲ですかい、違う?あぁラジオですよ、地方FM。駅前の商店街に小さい放送局があってね」
まぁご近所さんだし、評判もよくってねっと、そう続ける恐らくは店主であろう初老の男に礼を言って店をでた。
それだけの、話の筈だった。
その数時間後に、再び、同じ声を聴かなければ。
奇妙に印象的な声で話すのは、一体どんな顔の人物だろうか…チラリ、そんな興味が無くもなかったが。
時計を確認すれば、待ち合わせの時間も迫ってい、また、駅前にあると云う放送局を訪ねたとて、無関係な人間が容易に入れるとも思えず。
苦笑を零し、男は待ち合わせ場所へと向かった。
食べるのも、呑むのも好きな先輩に付き合って、三軒目。
低く、微かにジャズの流れる店は、大先輩の気に入りの隠れ家だと云う。
流石に、幾らかのツマミと、それぞれの前にウィスキーのグラス。
カウンターに座して、当たり障りのない話をしていた時。
一つ置いた隣の席から、その声は聞こえた。より正確には、その向かいから…だ。
「ご注文はお決まりですか」
男と先輩が二杯目を飲みだした頃に来た若い女性の二人連れ、薄暗いバーには不似合いな、だが、案外と慣れた様子な彼女らへ。
声をかけたのは、カウンターの内に立つバーテンダー。
「キール…かな」
「ブルームーンを」
「かしこまりました」
店の、心地好い静寂を乱さぬ、その声。
その店で、日に幾度も繰り返されているだろう、やり取り。
「あっ」
知らず、声を上げていた。
そちらに、目をやれば、いつのまに交代したのか、カウンターの内に立つバーテンダーが入れ替わっていた。
男が、先輩と共に来た時に居たのは、無口な黒髪の体格の良い青年。
しかし。
「何か…」
彼女らに目礼し、男へと視線を向けて短く問いを投げかけてきたのは、それより遥かに細身の青年だった。
黒いベスト、糊の利いた白いシャツ。
柔らかな間接照明の下であっても、そのシャツよりも白く見える膚と、淡い色の髪。
年頃は、男と然程変わらぬように見える。
「ぁあ、いや、その…カクテルの名前、なのか」
「はい」
口ごもりながらの、問いに、短く応じる、その声。
訝る様子も見せずに、淡々と。
「夕方、同じ名の曲を紹介してるのを聴いたんだ、あれは」
アンタか…と、皆まで言わずとも、伝わったのだろう、端正と云っても良い面に浮かんでいた取り澄ました表情の影から、微かな笑みが零れる。
ほんの、刹那の事だったが。
「よろしければ、お作りしましょうか」
チラリ、男の前のグラスを見、続いた問い。
「頼む」
それへ、気付けば男は即答していた。
終
2013/03/09